次世代に残したい「働く価値観」

Vol.11 GUEST

株式会社インターオフィス
取締役社長 兼 COO

寺田 尚樹

Naoki Terada

1/100のスケールで世界観を表現する「テラダモケイ」シリーズや、アイスクリームを楽しむために生まれたオリジナルブランド「15.0%」など、遊び心のあるプロジェクトを展開し、多方面から支持を得る株式会社インターオフィス 取締役社長の寺田尚樹さん。100名近い社員をマネージメントする立場でありながら、建築家 / デザイナーとして現役であり続ける寺田さんと今回語り合うテーマは、「次世代に残したい仕事の価値観」について。バックグラウンドも年代も異なるふたりが導き出した結論とは……?

テクノロジーが発達した現代で、あえて足を運ぶ

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大川:今回「建設論ギ」のオファーを受けての率直な感想をお聞かせください。

寺田:日頃から建築やデザインをジャンル分けして考えていないので、「建設」というキーワードでちゃんと答えられるだろうかと、若干不安になりました。というのも、私はオーストラリアやヨーロッパで建築の仕事をした経験があって、向こうでは建築とか建設というセグメントごとに考えることはしないからです。

イタリアの大建築家にカルロ・スカルパという人がいて、彼の仕事のスタンスにとても共感しています。スカルパは建築家としての能力を追求するだけでなく、実際に建物をつくる職人とのコミュニケーションを非常に大事にしていました。自分の思いを職人たちに理解してもらうために、行きつけのレストランに彼らを連れて行き、好みに合ったメニューでもてなしたりするんです。

大学で学び知識を身につけてきた建築家と、ひたすら現場で技術を磨き上げてきた職人とではバックグラウンドが違うわけだから、建築家の言葉で説明しても、通じ合えないですよね。

大川:日本でも現場終わりにスタッフみんなで食事に行って、そこで職人さんの誕生日会をするとか、お互いを理解できるようなコミュニケーションはありますよね。ただ、そこまでのコミュニケーションを日常的に取れている人は少ないという印象です。日本の人たちはシャイというか、コミュニケーションが不得手な人が多いですし。でも、「クライアントに価値を届けたい」という意識があるかどうかで、行動が変わってくると思います。

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寺田:面と向かって人と話すのってエネルギーがいりますが、根底に「良いものをつくりたい」という思いがあれば、自然と積極的にコミュニケーションをとるようになりますよね。ただ最近は、建築やアートの規格化が進み、建築家がいなくても図面さえ見えれば建物ができあがってしまうので、コミュニケーションが必要なくなっている気がします。

大川:まさにおっしゃるとおりで、コミュニケーションが明らかに簡素化していますよね。私がこの業界に入った頃、携帯電話を持っていない人もザラにいました。自らクライアントのところに足を運んで、直接打ち合わせをするのが当たり前でした。

寺田:仕事なので余計な労力をかけず、効率的に済ませるのは間違っていないと思うんですが、とはいえ面と向かって話をしないと、結果的にいいものができないことも多いですよね。

大川:私、ビジネスメールは一切見ないんです。会社にはパソコンもありません。スマートフォンでショートメールやTalknote、LINEでやりとりをするぐらい。以前メールのやり取りが原因で何十回と失敗したので、もう一切使わないことにしました。

寺田:我々の仕事はメールを送って終わりではなく、「その後に何をつくるか」が本質ですからね。足を使って、会いに行くことを忘れてはダメですよね。

 

唯一無二の技と信頼できるチームを持つ

 

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大川:寺田さんは海外で建築の仕事を経験されたそうですが、海外と日本での職人の働き方の違いはありましたか?

寺田:日本の職人さんは、技術力が高くて真面目ですね。「今日はこの壁まで塗る」と決めたら、就業時間をオーバーしてもやり遂げてくれる。海外の職人さんは予定どおりに進んでいなくても、退社時間になったらさっさと帰ってしまいますから。日本の職人さんはプロ意識が高い。

大川:日本という国自体が、真面目できっちりしていますからね。そして、技術力を追求する姿勢もすごい。それはそれで素晴らしいことですが、効率的に伴う建築技術の規格化によって、職人の技術力が生かされる場面が減っているんじゃないかなって。現場で技術を発揮できなければ、職人たちの仕事はなくなる一方ですよね。

寺田:そんななかでも、自分にしかできない技をひとつでも持っていれば、仕事が途切れることはないと思うんですよね。誰にでもできることなら、安いほうが選ばれますから。あとはキャラかな。「細かいところまでしっかり対応してくれるあいつだから仕事を頼もう」とかね。

技を磨くと同時に、親方とか施工会社とかデザイナーとか、仕事で関わる人たちと密な関係を築いて、信頼できるチームをつくることも必要かもしれません。薄く広い人脈があっても、あまりメリットがないのかなって。

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流行り廃りではなく、長く残るものに価値がある

大川:ごもっともだと思います。ただ現場で作業に追われている職人たちは、どんな人と出会って、誰と信頼関係を築いていけばいいのかがわからなくなっているんだと思います。その方法を知るために、ウェブのように不特定多数の人に発信できるツールを使って、キッカケをつくるといいのかもしれませんね。

 

寺田:確かに、出会いのキッカケとしてはウェブが有効ですね。私も「テラダモケイ」や「15.0%」のような好みが分かれるプロダクトで活用しているのはウェブですね。「テラダモケイ」や「15.0%」は世の中の人みんなが好きになるものだとは思っていないのですが、届けたい人がどこにいるかを知るためには、不特定多数の人に広く浸透させる必要がありますからね。そういった意味では、ウェブの可能性は大きいと思います。

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大川:
御社は、ホームページや販促物など、外に対しての見せ方が非常に長けていると思います。我々TEAM SUSTINAは、若者が憧れるような建設業界を作っていきたいと思っているんですが、そのために何が必要か、アドバイスをいただけますか?

寺田:当社では、取り扱っている家具を紹介する際、ただ漠然と写真を載せるのではなく、ひとつひとつの家具の背景を見せるようなブランディングにこだわっています。ひとつの傑作が誕生するまでには、それこそ100個ぐらいのボツ作品が実は存在しているんです。そう考えると、ひとつの家具が生まれること自体が奇跡的なことだと思うんです

デザイナーが込めた思いやメーカーの努力など、ひとつの家具のバックグラウンドを丁寧に伝えることで、同じものでも価値が変わって見えるはずです。だから、その家具に込められている人間味みたいなものをしっかり伝えることを大事にしていますね。愛着を持ってもらえれば、流行り廃りで終わらずに長く使ってもらえると思うので。

大川:「ストーリーブランディング」ですよね。建物も同じで、いろんな人の想いが込められている建物それぞれのヒストリーを私たちも伝えていきたいと思います。そういえばお聞きしたところ、寺田さんは小規模の設計事務所からこのインターオフィスの社長に就任されたとお聞きしたんですが、その経緯をお聞きしてもいいですか。

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寺田:インターオフィスの創業者に「ウチの役員をやってみないか」と声をかけられたことからです。ここでデザイナー部門の部長を3年やって、4年目で取締役社長になりました。当初は悩みましたが、せっかく声をかけていただいたので「やってみよう」と。

大川:一気にマネージメントする人数が増えたことで、戸惑うこともあったのでは。

寺田:5人ぐらいの設計事務所から100人規模まで増えて、人数だけ見たらすごい環境の変化ですよね。ただ、1人でも100人でも命の重さは変わらないので、気持ちとしては大して変わっていないんですよ。

大川:ユニオンテックは現在 120人ほどの社員を抱えていますが、「TEAM SUSTINA」という新規事業を始めた2016年から2017年2月までで、20名もの社員が一気に辞めたことがありました。それまではずっと空間事業だけに専念していて業績は右肩上がり。給料も上がってみんなが喜んでいたところで「新しいことやるぞ」と新規事業に資金を注ぎ込んだので、その行動に賛同できなかったことが大きな要因だと思います。私としては、空間事業も新規事業も同じ山を目指すために必要なことなんですけどね。

 

毎日、ワクワク感を追求する

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寺田:
経営者と社員では目線が変わってくるので、辞めていった人たちには、新規事業がこれまでと真逆のことに見えてしまったんでしょうね。

大川:これまではクライアントとの仕事ばかりだったけど、「これからはその後ろにいる職人さんのことをもっと見ていこう」と思って始めたのが「TEAM SUSTINA」でした。協力会社も含めて全員で上を目指そうよってところからユニオンテックは始まっているので、軸そのものは何もブレていないのですが、インナーブランディングが不十分だったのかと思います。

寺田:会社規模が100名を超えてくると、顔を知らない人も出てきたりするので、ビジョンを浸透させることが難しくなりますよね。でも「やるぞ」って号令をかけられるのは社長だけですし、壁が立ちはだかっていても、信念を貫かなければいけないこともあると思います。

100%の賛同を得て実行するのが一番ですが、それぞれの人間が負う責任や立場が異なる以上、それは容易じゃない。それならば、「理解はできないけど、社長が言うならついていこう」と思ってもらえる状況をつくるしかないのかなって。大川さんは普段社員に、どんなこ指導をされているんですか?

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大川:
社員には「ワクワク感を大事にしてほしい」と伝えています。私自身、誰よりワクワクしながら仕事をしているんですが、ただ流れるままに業務をこなすのと、誰のために何のためにやっているのかを考えながら取り組むのとでは、まったく結果が変わってくると思います。
「今日はこの人に喜んでもらおう」と考えて取り組めば、ワクワクするじゃないですか。さらに「どうせ喜ばせるなら感動レベルで喜ばせよう」みたいにレベルを上げていくと、ますます楽しくなる。

常日頃、社員に話しているのはこんなことです。「お客様が来るならデスクで待っているのもひとつだけど、入り口でお待ちすることも、エレベーターの前でお待ちすることもできるよ。もっと言えば、駅までお出迎えすることもできる。相手に喜んでもらうために、ワクワクしながらプランを考えたほうが今日一日が楽しくなるよ」って。

日々学んで何かを得て、その変化によって身の回りの大事な人を守れたり、誰かに影響を与えられれば、「あなたに会えてよかった」って言ってくれる人が現れるはず。そんなふうにワクワク連鎖が広がれば、会社の雰囲気が明るくなり、業績も伸びてくると思うんです。

寺田:会社を盛り上げていくには、5年後、10年後に「こうなりたい」と思える人が近くにいるかどうかが大事かなと思います。社長がワクワクしながら日々楽しく仕事をしていたら、最高の目標になるでしょう。ワクワクってすごくいい言葉ですよね。

私がスタッフに求めるのは、自分なりの提案をしてほしいということですね。もちろん言われたことをしっかりやるのが先決ですが、そのうえで新たな提案をしてくれたら非常に嬉しい。それもやっぱり、ワクワクするような興奮がないとできないことですよね。自分を表現したいというエネルギーを持って、仕事に取り組んでほしいと思っています。

大川:僕は今年38歳になりますが、気持ちだけは若いまま変わらない自信があります。ワクワクおじさんのドキドキワールド(笑)を永遠に追求していきますよ。

 

2017.10.31

PROFILE

次世代に残したい「働く価値観」

株式会社インターオフィス
取締役社長 兼 COO

寺田 尚樹

1967年生まれ、大阪府出身。建築家 / デザイナー。明治大学 建築学科を卒業後、オーストラリア、イタリアなどでデザイン事務所に勤め、AAスクール(イギリス・ロンドン)ディプロマコース修了。2003年にテラダデザイン一級建築士事務所を設立し、2011年に「テラダモケイ」を設立。現在、株式会社インターオフィスの取締役社長 兼 COOを務める。
https://www.interoffice.co.jp