建築業界の就職事情と将来 〜建築学生のホンネ〜

Vol.05 GUEST


建築学生サークル♭

宍戸元紀 / 本間誠也

Shishido Motoki / Honma Seiya

「つどい、つながり、つくる」。大学の枠にとらわれず、建築のさまざまなことに興味関心をもった大学生が集い、切磋琢磨する学生団体「建築学生サークルb(フラット)」。同団体で代表を務める宍戸元紀さんと副代表の本間誠也さんはともに大学2年生だ。未来の建築業界を背負って立つ彼らと、建設業界一筋19年の大川祐介の建築業界への就職と将来へのホンネが飛び交う。

会社選びはその後の人生を決める

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大川:お2人は、どうして建築学科を選ばれたんですか?

宍戸:元々ものづくりに興味が強かったことと、理数系であることから建築に決めました。

本間:幼い頃から「大改造!!劇的ビフォーアフター」(テレビ朝日系)など、リフォームをテーマにしたテレビ番組が好きで、そこから建築に興味を持って。工作も好きだったので。

大川:実際に大学で建築を勉強してみていかがですか? 入学前とイメージは変わりましたか?

宍戸:予想よりも厳しい世界だと感じました。ちょっと珍しい作り方やアイデアがあれば有名になれるのかと思っていましたが、到底そんなものじゃないなって(苦笑)。

本間:私は4年間で学べることはすごく限られていて、建築という分野のごく一部なんだなと感じました。

大川:建築業界は、どこで尖らせるかの勝負だと言われていますよね。本間さんのご指摘ももっともで、これだけ業界に浸かっている私でも、まだまだ知らないことだらけなんです。

宍戸:新卒で建築系企業に入社した場合、一番最初に覚えるのはどんな仕事なんでしょうか?

大川:弊社の場合はマナー研修を終えたら、しばらく現場に入っていただくことになります。それは設計・現場監督・職人もみな同じです。おそらく他の建築系の企業も同じではないでしょうか。設計事務所であれば、ひたすら図面を書くのかもしれないですね。

本間:大川社長はどのくらい現場を経験されたんですか?

大川:私はどっぷり19年間、現場の人間でした。その後、現場を抜けて2016年3月に建設業界の未来をつくるプロジェクト「TEAM SUSTINA」を立ち上げました。この対談もその一環です。

本間:19年とはすごいですね!

大川:お2人の志望分野はもう定まっていらっしゃるんですか?

宍戸:僕たちは2人とも設計志望なんですが、就職の入り口は狭き門なのでしょうか?

大川:決して狭くはないと思います。ただ、建築業界と言えどかなり幅広く、設計の中でも「新築住宅・大型商業施設・大型ビル・マンション・アパート・リノベーション」等、細部まで分かれています。志望ジャンルを絞っていくと、狭くなってしまうかもしれません。

宍戸:そうなんですね。では会社を選ぶ際は、何を基準にするといいのでしょうか?

大川:建築は、ジャンルによって得られる知識がまったく異なります。志望ジャンルの中で実績がある企業に狙いを定めると良いと思います。建築業界は、一度入社してしまうと、知識が異なることもあって途中で進路変更が難しくなります。最初に入った会社が、その後の人生を決めてしまうぐらいのインパクトがあるんです。

宍戸:なるほど。建築業界で生きるうえでの基準になるからこそ、最初の会社選びは慎重にならないといけないんですね。

 

資格を取るより、ひたすら感性を磨くべし

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本間:就職活動の際に、志望企業へポートフォリオを提出すると思いますが、企業側はどこを見ているのでしょうか?

大川:一番はセンスですね。弊社の場合は内装プロデュースがメインなので、とくに感性がある人材を求めています。それに付随して、プレゼンテーションのスキルも高ければ、企業側はその学生を放っておかないでしょうね。

宍戸:インテリアコーディネーターやカラーコーディネーターなどの資格を持っていることは、就職活動で武器になりますか?

大川:実は一級建築士以外の資格は、ほとんど有利にならないのが現状なんです。もし武器になるのだとすればその会社で使っている設計ソフトを操れるほうが、断然ありがたいです。弊社の場合は『Vector(ベクター)』がメインです。

宍戸:僕がいま使用しているソフトは 『AutoCAD (オートキャド)』なので、志望企業に合わせて使えるソフトを増やしていかないといけないですね。

本間:感性を磨いてポートフォリオの制作に注力すると、就職に有利に働きそうですね。

大川:その通りです。さまざまな建物を見たり、アートに触れたりして感性を研ぎ澄ませ、ポートフォリオをブラッシュアップさせるほうが、ずっと就職活動に役立ちます。常に固定概念を持たずに、軽い心持ちでいるといいと思います。人は生きている限り考え方が変わっていくものだし、見えなかったものが見えた瞬間に新しい思考回路が広がるので。ちなみに、お2人が今までで一番印象深かった建物はなんですか?

本間:スペインの『サグラダ・ファミリア』ですね。外観はもちろん、ステンドグラスから虹色の光が差し込む内観も素晴らしくて、これらすべてが設計されて作られたと思うと、ただただ圧倒されるばかりでした。

宍戸:先日訪れた京都の寺院です。一つの建物に強烈に惹かれたわけではないんですが、手作業の技術力の高さを目の当たりにして、その技術力を日本の良さとして、何かに活かせないかなと考えていました。

大川:昨年、社員旅行でスペインを訪れたんですが、弊社の社員たちも サグラダ・ファミリアに震えるほど感動していましたよ。個人的には宍戸さんと同じ京都の寺院が好きで、特に『三十三間堂』は京都に行くたびに足を運んでいます。

宍戸:大川社長は、三十三間堂のどんなところに魅力を感じますか?

大川:五感に訴えかけてくる独特な雰囲気です。あの1000体もの観音立像が醸し出しているんでしょうね。その観音立像の前に立っている、風神・雷神をはじめとした30体の尊像もまた迫力があっていい。建物に入った瞬間に、相手に雰囲気を感じさせるってすごいことだと思います。

本間:感性を磨く以外に、学生時代に努力すべきことはありますか?

大川:「人と違う経験をすること」です。たとえばアフリカでボランティア活動をして、帰国後に関連プロジェクトを立ち上げ、周囲の人を巻き込んで実行したとか。勉強の域を超えた特別な経験を持つ人材は非常に魅力的です。

宍戸:僕たちでいうと、所属している「建築学生サークルb」の活動が特別な経験になっていると思います。ここではプロのデザイナーさんを審査員に招いて年に1回デザインコンペを行ったり、珍しい建物を見学するツアーを組んだりしています。

大川:素晴らしい経験ですね。さらに活動内容を独創的なものにすることで、強力な武器になることは間違いないと思います。

建築業でのスタープレイヤーは1万人に1人

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宍戸:ありがとうございます。将来的な話になるのですが、いずれ独立を視野に入れているなら、やはり20代のうちに独立に向けて動くべきでしょうか?

大川:おっしゃる通りです。20代中盤から、遅くとも30歳までを目安にするといいと思います。

本間:年収ベースで考えると、企業の社員を続けるのと独立するのとではどちらが良いのでしょうか?

大川:売れる人間になれば、会社員よりもずっと年収は高くなります。ただ売れる人間は一握りなので、そう考えると会社に所属していたほうが経済的に安心ではありますね。

本間:設計ではセンスがある人が売れる世界だと思いますが、売れている設計士は実際どのくらいいるのですか?

大川:儲かっている人は1,000人に1人、いわゆるスタープレイヤーになると1万人に1人程度です。

本間:建築業のスタープレイヤーは、ずば抜けたセンスを持っている人ですよね?

大川:実際ではセンスが5割で、残りの5割はプレゼンテーション能力が決め手になると思います。言葉の力でクライアントのテンションを上げていき、「これを実現したい!」と思わせられないと、スタープレイヤーにはなれないんです。

宍戸:具体的にどんなプレゼンテーション能力が求められるんでしょうか?

大川:ロジカルな構成と圧倒的な熱量、この2つが揃ったプレゼンテーションができればベストです。ただし、相手の想像をはるかに超える企画ありきです。クライアントが唸るぐらいの企画を出さなければ、絶対に決めてもらえません。

宍戸:やはり一筋縄ではいかない厳しい世界なんですね。

大川:そうですね。スタープレイヤーを目指す以外の選択肢だと、独立して設計と施工をセットで受ける方法もアリです。設計だけではなく施工でも利益を出せば、売上が上がります。ただ、日本は既に開発し尽くされているため、これからの時代は、「つくる」よりも「生かす」リノベーションの分野が伸びるのではないでしょうか。

本間:確かに。大学でも「築100年の古民家を再生する」など、リノベーションの課題が増えてきました。

宍戸:僕たちは海外志向も強いのですが、海外に出て働くという選択について、ご意見を伺いたいです。

大川:それは大いにアリでしょう。日本の建築業界は先細りが見えてきているので、日本の技術力とおもてなし文化を武器に海外を攻めたほうが、成功する確率は高いと思います。

本間:海外で成功するために、身につけておいたほうがいいスキルはありますか?

大川:英語力だけだと思います。日本の建築技術を外国人のクライアントに伝えることさえできれば、売ることができますから。

お客様の人生の一大イベントに立ち会えるのは無上の喜び

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宍戸:大川社長がインテリアデザインに携わるなかで、一番やりがいを感じる瞬間を教えてください。

大川:3つあって、1つ目は設計段階で、自分が設計した建物をご依頼いただいたお客様に喜んでもらえたときです。2つ目はプロジェクトを達成するまでの過程で、それに関わる方たちとの一体感を味わえたとき。最後は建物の完成をお披露目してお客様が感動してくれたときです。

宍戸:それは確かに手応えを感じられそうですね!

大川:お披露目したとき、お客様が感動のあまり涙を流してくださることもあります。私は10回以上、そういった経験があるのですが、その瞬間は心のなかでガッツポーズをしています(笑)。

本間:クライアントを感動させたいという思いが原動力になるのですね。あとはクリエイティブな仕事なので、やってもやっても底がないというか、とことん追求する楽しみもありそうですね。

大川:もちろんあります。同じプロジェクトであっても、今日の提案と1年後の提案ではまるで違うはずです。自分のインプットする知識や感性と時代の変化、さらに各クライアントの趣味嗜好がすべて変わっていくので、それらを追い求めるのはこの仕事の醍醐味でもあります。しかし、この業界ならではのもう一つの醍醐味があるのです。何だと思いますか?

本間:うーん……なんでしょう?

大川:「お客様の人生の一大イベントに携われる」ということです。マイホームを建てることは、人生において最も高い買い物です。お客様が時間と労力を費やして貯めた資金を使って、人生の一大イベントを実現する場面に立ち会えるのは、何よりの醍醐味だと思います。

宍戸:その場に立ち会えるのは本当に感動的なんでしょうね。では、大川社長がクライアントへ価値を提供するために、一番大切にされていることはなんでしょうか?

大川:「その建物や空間を使う人」のことだけを考えて、内装をプロデュースすることです。個人住宅の場合はクライアント=その場所を使う人、つまりその家の家主ですが、マンションやビルの場合は、クライアントとは別に「使う人」がいます。クライアントからの要望をすべて聞くのではなく、私たちは常にその空間に関わる人すべてのことを考えて設計・施工・プロデュースをしています。もちろん、まったく要望を聞かないというわけではないので、「使う人」が便利になるようなことであれば取り入れていきます。

宍戸:本日はありがとうございました。これまでは自分たちと年齢の近い建築業界入社1年〜2年目の先輩としか接点がなかったので、とても勉強になりました。

本間:これからもっとサークル活動に注力すると共に、感性を磨くことも怠らずに自分の武器を見つけながら続けていこうと思いました。

大川:こちらこそ未来の建築業界を担うお2人とお話しができて、とても嬉しいです。共により良い業界の未来を築いていきましょう。

2017.4.11

PROFILE

建築業界の就職事情と将来         〜建築学生のホンネ〜


建築学生サークル♭

宍戸元紀 / 本間誠也

宍戸 元紀 (左)
2011年10月に11大学によって大学の枠を超えて切磋琢磨するために結成された建築学生サークル「♭(フラット)」代表。芝浦工業大学建築学科、在学。「つどい、つながり、つくる」を理念として、さまざまな大学の建築系学生との製作活動を通して「刺激」「経験」「人脈」を得ることを目的としている

本間 誠也(右)
建築学生サークル「♭」副代表。東京電機大学建築学科、在学。「♭」では副代表を務める傍ら、会計も担当。宍戸とともにサークルを支え、運営メンバーを中心とした各大学支部をつくり、同大学内だけでなく他大学の学生とのつながりも大切にすべく活動している

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