内装業界の未来と女性社会〜女性が職人として働くこと〜

Vol.06 GUEST

内装屋「インテリアJUN」
代表取締役

深山じゅん

Jun Miyama

男社会とも称される建設業界で、クロス職人として、12年以上の経歴を持つ深山じゅんさん。2人の息子を持つシングルマザーである彼女は、5年ほどの下積みを経て独立し、「インテリアJUN」を開業した。
そんな深山さんと語り合うテーマは、「内装業界の未来と女性社会」について。女性が建設業界で働き続けるには、まだまだ課題が山積みだ。どうしたら、それらの課題を打破できるのか。熱いクロストークの末に、次の展開が見えてきた。

全国の女性職人に呼びかけ、イノベーションを起こしたい

深山:女性が建設業界に入りづらく感じるのは、「職人はつらい仕事」っていうイメージが強いからなんですよね。街中を歩いていても見かけるのは、足場屋さんか塗装屋さんで、内装職人の仕事を見る機会がないですし。

大川:そうですね。「建設業=男性の仕事」という定義ができてしまっているのも一つの要因かなと思います。その定義を覆さなければ、女性が働きやすい環境を築くのは難しいでしょうね。

深山:同感です。建設業界全体の意識改革を行い、女性が職人として働くのが当たり前になれば、自然と職場環境も変わってくるはずですよね。

大川:今、女性職人が置かれているフェーズは、マズローの欲求5段階説(※注)を基に考えるとわかりやすいと思います。一番下が食欲や睡眠欲などの「生理的欲求」、その次が危険を回避したいという「安全欲求」、ここまでは満たされていますよね。その次の「社会的欲求」を満たすことが今、女性職人に必要だと考えます。

(※注:アメリカの心理学者「アブラハム・マズロー」が提唱した人間の欲求を5段階の階層で表した理論。図解ではピラミッド型で表現され、底辺から「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」の順で表す。「自己実現理論」とも呼ばれる。

深山:仲間を作るということですね。私も女性職人のコミュニティーを拡大したいという思いは、切実にあります。「建設職人甲子園女子部」(※編集部註)もまだ5人だけですし。閉鎖的な業界なので、ほとんど情報が入ってこないんですよね。

※註:建設業界で働く人たちに学ぶ場・成長する環境を提供し、現場で働く職人にさらなる生きがいと働きがいを創ろうと活動する「一般社団法人建設職人甲子園」の中で女性職人を集めたコミュニティー

大川:そうですよね。全国の女性職人を片っ端から集めて、承認欲求を満たすためにお互いを認め合う。その上で、「建設業=男性の仕事」というこれまでの常識を変えていくには、世間の人々を巻き込んでいかなければなりません。世論にしないと国は変わりませんからね。

深山:集めましょう! ちょっとずつではきっと動きが止まってしまうので、やるなら一気に集めるしかないですね。そして、閉ざされている建設業界を変えていきましょう。

大川:はい、いずれ誰かがやらなきゃならないと思うので、私が中心となって動くつもりです。何人集まるかはわかりませんが、「業界を変えていこう」という意見に賛成してくれる業界の方々や女性職人が必ずいるはずです。コアとなる人材が集まれば、彼女たちが建設業界を変える原動力になると思います。

深山:大川さん、やっぱりカッコいい! 大勢の女性職人が一堂に会すことで、あらゆる角度からの意見が聞けるのも、おもしろいですよね。

大川:全国の女性職人を集めて、まず朝礼からですね(笑)。

女性にとって一番切実なのが「トイレ問題」

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深山:世間一般的には「職人はつらい仕事」だと思われていますが、実際やってみると、案外そんなことないんです。合うか合わないかはその人次第で、やってみなきゃわからない。時には重たい物を運ばなければならないこともありますが、持てないぐらい重たい物は男性にお願いしてしまいます。

大川:内装業の仕事をしていると、糊付機を持って階段を上らないといけないタイミングってないですか? あの機械は20kgぐらいありますよね。

深山:ありますね。1人のときはなんとかしますが、周囲に男性がいたら、強制的に手伝ってもらっています(笑)。「男性に頼らずに自分で運びたい」という負けず嫌いな女性職人もいるのですが、私はできることをお互いにすればいいと思うんです。重いものを持てない分、掃除を丁寧にするとか、男性が気づかない気配りをしたりすればいいかなって。

大川:深山さんに同感です。男性も頼まれれば素直にやりますし。それに現場に1人女性がいてくれると、場が華やかになるんですよね。同時に私語が増えたりもしますが(笑)。女性が建設現場で働くにあたって一番困るのは、やはりトイレ問題ですか?

深山:はい、それは声を大にして訴えたい問題です。近くにコンビニがあればいいですが、どうしても不衛生な仮設トイレを使う気にはなれないし、地方だとなかなかコンビニもなくて。この状況が変わらなければ、トイレがネックで辞めてしまう女性が出てきても仕方ないのではないでしょうか。ただ最近は、大手ゼネコンの現場だと女性専用の水洗トイレが設置されているところがありますね。あのトイレは、現場監督に女性が増えてきた影響だと思います。

大川:おっしゃる通りですね。いずれにしても「女性が働きやすい職場をつくっていこう」という空気が、建設業界で徐々に広がっているのは確かです。あとは女性職人を集めて大きな声にして、業界全体に届けたいですよね。

深山:はい、トイレ問題は改善されるまで永遠に言い続けますよ。でも、逆に言えばトイレ問題以外に困ることはないですね。私の場合、一戸建ての内装やリフォーム案件が多いので、基本的に1人で作業します。だから好きな音楽を聴きながら、自分のペースでできて快適なんです。人間関係のストレスもほぼありません。

大川:複数人で一斉に同じ作業をするマンションなどを請け負う場合は、やっぱり周囲の人の出来が気になってしまいますけどね。一斉に100m走をしているようなものですし。ただ職人は昇進という概念がないので、最終的には自分と向き合って、いかに早くキレイに仕上げられるかですが。

深山:そうですね。ポジションを狙って男性と張り合うこともないですし。以前、見習いだったときに一度だけ「女性と外国人は立入禁止」という現場がありましたが、それ以降はありませんね。

「企業の在り方」次第で、内装職人と子育ては両立できる

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大川
:深山さんは若くしてご結婚され、シングルマザーとしてお2人の息子さんを育ててきたんですよね。お子さんが幼いうちは、職人の仕事とどう両立されていたんですか?

深山:私の場合は、子供の面倒を見てくれる家族がいたことと、子育てに対して理解のある親方だったので、現場の仕事と子育てを両立することができたんです。子供が急に熱を出しても、迎えに行けるような環境でした。そんな懐の広い親方に巡り合えて、とても運が良かったと思っています。

大川:なるほど。やはり企業側の体制次第という点は否めませんね。弊社もそうですが、建設業界でも女性を積極的に採用したい企業は増加傾向にあります。だから、決して入り口が狭いというわけではないと思うんですよね。

深山:ただ一般的には、入り口が広がっていることが伝わっていないと感じます。企業側がもっと積極的にメッセージを発信していかなければ、世の中の女性たちには届かないような気がします。

大川:それは企業がまだまだ努力すべき点ですね。ゼネコンの現場だと、朝礼に間に合わなければ1日現場に入れないなんてザラですよね。

深山:そうですね。ただ安全管理の観点でも、ゼネコンの現場体制を変える必要はないと私は思っています。朝礼は社員の安全を守るためにやっていることですし、この業界は何よりも安全第一なので。だから子育てと両立するならば、ゼネコン以外の現場を選択するのが正解だと思います。

大川:確かに。街場の仕事であれば、柔軟に働ける現場はたくさんあると思うんですよね。ただ我々の業界は、工期というクライアントとの重大な約束事を背負っているので、その約束は絶対に守らなきゃならない。そのうえで、企業側がどれだけフレキシブルに考えられるかどうかですよね。

建設業界への入り口になるような、DIYセミナーを開催したい

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深山:企業側の負担を軽くするためにも「仕事と子育ての両立」をしたい女性職人は、リフォーム案件を担当するといいと思うんです。一戸建ての場合は、お客様も女性であることが多く、女性職人が対応すると喜んでいただけるし、工期や使用する素材なども相談しながら調整しやすいので。

大川:それは私も賛成です。個人住宅のリフォームであれば、営業開始日の絡みがないですしね。さらに、これからは新築が減って、今あるものを生かすという段階になってくるので、自然とリフォームやリノベーション案件が増加するでしょう。

深山:それに、リフォームやリノベーションに興味が強い女性も多いと思うんです。ただ、内装業という職業自体が世の中に知られていないことが課題かなって。きっと、「クロス屋さんって何をするの?」という方も少なくないはず。私も偶然、クロス職人の親方に出会わなかったら、きっとこの職業を知らないままだったと思います。

大川:そうでしょうね。内装業を知れば、「やってみたい」と思う人は一定数いると思います。

深山:内装業の認知向上と女性が建設業界に入ってくるための入り口として、今後、DIYセミナーを開催していきたいんです。「プロが教えるクロス貼り」とか「塗装」とか。そして、その様子を発信して、潜在層に届けていきたいなと。たとえば自分の家をリフォームするのに、一面だけ自分でクロスを貼ったら、そこで暮らすことがもっと楽しくなると思うんです。建設業界は、どうしても「建物を建てる」だけのイメージがあるので、「そうじゃない仕事もあるんだよ」と知ってほしい。

大川:とても素晴らしい取り組みです。職人の仕事は、結局「やってみて楽しいかどうか」ですよね。

深山:はい。私も親方に誘われて、何も知らないままクロス職人の世界に入りましたが、やってみたら楽しかったんです。だから、入り口はなんでもいいと思います。

大川:この対談を通して、次の展開が明確に見えてきましたね。「全国の女性職人を集めた朝礼」を一緒に実現させましょう!

2017.4.18

PROFILE

内装業界の未来と女性社会〜女性が職人として働くこと〜

内装屋「インテリアJUN」
代表取締役

深山じゅん

内装屋「インテリアJUN」代表取締役。2人の息子を育てながらクロス職人をおこなう女性職人。「職人=男性の仕事」というイメージを変えるべく、建設業界で働く人たちに学ぶ場・成長する環境を提供し、現場で働く職人にさらなる生きがいと働きがいを創ろうと活動する「一般社団法人建設職人甲子園」で「建設職人甲子園女子部」を結成し積極的に参加するなど女性が現場で働くことへの意識改革に意欲的に取り組んでいる。

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