クリエイティブを通じて職人の仕事を魅せたい

Vol.09 GUEST

サウンドアーティスト/作曲家/音楽監督/環境音収集家

清川 進也

Shinya Kiyokawa

2017年3月、公開とともに大きな反響を呼んだ、本物の大工職人が建設工具を使って音楽を奏でるムービー「建設工具交響楽団 『第九』」。監督として携わった音楽作家・清川進也氏は、この映像作品を通じてどんなことを感じたのだろうか。そのうちなる想いに迫ってみた。

背中で語る職人の姿勢に感銘を受けた

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大川:清川さんに制作してもらった『第九』は、何回見ても飽きないんです。仕事から帰る電車の中で、僕も動画をよく見ています。

清川進也(以下、清川):『第九』は満足できる作品になったので、そうおっしゃっていただき光栄ですね。

大川:実を言うと、最初に観たサンプルムービーは音の調整ができていなかったようで、ピンと来ませんでした。でもその後、完成バージョンを聞いてみたら、震えたんです。作品から「戦ってやるぞ!」という意気込みが伝わってきて、「この作品を武器にして戦っていくんだ!」と武者震いしました。

清川:僕らは普段、「広告」というフィールドで映像や音楽をつくっていまして、「繰り返し動画を見てもらえるか」が成功の指標になるんです。僕の作品を何度も見て、ようやく面白さに気づく。そのように、何回も楽しめるコンテンツづくりを日頃から心がけています。

大川:僕は、それに見事にハマったわけですね(笑)。

清川:ハマっていただきましたね。この作品に取りかかる前は「どんな音を出してほしいか」を大工職人と何度も話し合いました。

大川:木を切ると言っても、木の硬さや使う工具によって音が変わりますもんね。

清川:たとえば「どんな音が出ますか?」と聞いたとき、「こういう音が出ます」と職人は話してくれます。そのあとは黙々と、いろいろな音を出してくれました。この作品を現場でつくりながら、多くを語ることなく丁寧にお仕事されている背中を見て「大工職人って、背中で語るんだな」と、仕事の姿勢を学ばせていただきました。

大川:実際の現場では、いろいろな職種の人が関係しますし、作業工程もいくつかあるので、もっとコミュニケーションが必要なんです。時間のロスをなくすために、「言葉でバトンを繋いでいく」ようなイメージですね。

清川:そうしないと、コミュニケーションの欠陥が生まれるわけですね。

大川:1日で工程が一気に進んでいくので、話さないと次の工程に進みません。その中で、職人たちは仲間になっていきます。

清川:モノは、到底一人ではつくれません。一緒になってつくり上げるというのが、いかに素晴らしいことか。僕が今回意図した部分も、まさに「共につくり上げる」ことでした。音楽に置き換えて考えてみれば“合奏する”、いわゆる「ハーモニー」です。TEAM SUSTINAは「チーム」と謳っていますから、この『第九』制作における僕個人の目標は「共につくり上げることを音楽という形で置換して表現する」ことでした。

誇りある仕事を知ってもらうために

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大川:この『第九』の他にも、職人の魅力を伝えられるコンテンツを、日々考えています。そもそも、職人ってカッコいいんですよ。お客様が泣いて喜んでくださるような仕事を手掛けることもありますし、人々の安心と安全を守っているので社会性もあります。ですが、建築物や道路を利用する人たちにとって、職人がつくるものは「当たり前」のものです。だから、ユーザーは「この建物は誰がつくったの?」と意識しなくなります。

清川:そのことで、僕も昔から疑問に思っていたことがあるんです。歴史あるお城を立てた人の名前を挙げるとき、たとえば「大阪城は豊臣秀吉」と言いますよね。けれども「いや、建てたのは大工さんでしょ?」と感じるんです。

大川:たしかに、「城を建てた人=大工」ではなく「発注者」と認識されていますね。ですから「誰が工事に携わったか?」をしっかり可視化していかないと、我々の特徴や価値が埋もれてしまいます。

清川:本当に、そう思います。

大川:建設業界は、見せ方を変えるだけで、めちゃくちゃカッコいい業界になるんです。建設業界の未来を担う若い世代に、職人のカッコよさが伝わらないのは、まさに「見れない・知れない・わからない」からだと感じています。

 清川:技術勝負でモノをつくっている人は、意外と口下手なんじゃないですかね。職人は「あの橋をつくった」とか「あの家をつくった」と、どんどんSNSでアピールした方が良いと思うんです。つくったモノを口に出して、SNSなどで情報を拡散していかないと、その素晴らしい技術や精神性がなかなか伝わらないんじゃないでしょうか。

 大川:建設業界で、いわゆる「一流の職人」と呼ばれるのは、45〜60歳のベテランです。28歳以下が8%以下ですから、SNSで自分たちの仕事ぶりを拡散できるような若者は少ないですね。職人でFacebookを利用している人は多いのですが、自分たちの仕事について発信しているイメージはありません。
清川:情報発信を活発にしていくためにも、もっと自分たちの仕事に対して「誇り」を持つことですね。

大川:どれだけすごいことをやっているか、ということですね。

清川:そうです。大工職人の仕事は世の中に必要不可欠な素晴らしいものです。しかし、ご本人たちはそういう状況に身を置いていることに、今ひとつピンと来ていないのではないでしょうか。

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大川:あと、現場レベルの職人は「どうやって情報発信すればいいか?」もわからないのでしょう。

清川:「自分をアピールする」ことが苦手だとしたら、それを乗り越える作業も必要だと思います。

大川:さらに問題となるのが、建設業界は「ピラミッド構造(多重請負構造)」と呼ばれる、「発注者から元請け、元請けから下請け」と段階的に発注される構造です。ですから、元請けから依頼が来たものを、下請けが「つくった」と言うためには、許可を取らないといけません。

清川:僕たちの音楽や映像の世界だと、映画に携わったとき、エンドロールにスタッフ全員のクレジットが映し出されます。それを見て、「こういう人が携わっているんだ」と確認し合い、次の仕事に繋がることもあるんです。建設業界だと、そうはいかない部分もあるんですね。

大川:そうなんです。あと、僕らの事業には「お客様の個人情報」や「会社の株価」に影響のある案件もあります。だから、仕舞い込まないといけない情報が多いんです。

清川:携わった仕事の情報を公開できないのであれば、大工職人の「スタイル」で、建設業界を盛り上げていくことができると思いますよ。最近は身体をがっつり鍛え、シルエットがはっきり分かるフィット感のあるウェアを好んで着ている若い職人もいらっしゃいます。あの「仕事×作業×体力づくり」は新しいカルチャーだと思っているんです。そういったスタイルに憧れる若い世代も多いのではないでしょうか。

大川:「大工職人のファッション」でも、盛り上げることはできますか?

清川:ファッション面でも、流行るといいですよね。見せ方の角度をひとつ変えるだけで、大きな財産になります。たとえば「ファッションショーを開催する」など、日本全国の若者に対して、建設業界から何かインパクトを与え、流行をつくり出すこともできるでしょう。

大川:僕もまさに、そこを目指して事業をしています。


「職人の精神性」を未来につなげる

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清川:大川さんはご自身の会社を立ち上げるとき、「見せ方」で苦労した部分はありましたか?

大川:ブランディングに10年間かかりましたが、見せ方で苦労したということはないですね。ただ、周りの仲間見ていると、せっかく良い仕事をしているのに「見せ方が上手くないな」と感じることはあります。

清川:元々イマジネーションが豊かな方なんですね、大川さんは。見せ方を変えていく必要がある反面、「職人の精神性」は残さないといけませんよね。英語に置き換えれば「クラフトマンシップ」です。僕は、その精神がモノづくりの髄(ずい)になるとも思っています。ただ、精神性をキープするのは並大抵のものではなく、僕も音楽作家としての精神性を保つために、孤独を味わった経験があるんです。何日も部屋にこもって作業しているので、ひとつの作品が完成したときには、社会で何が起こっているかまったくわからないということがありました(笑)。

大川:「精神性」を保つためには、どうすればいいのでしょうか。

清川:職人の精神性を保つためには、チームプレーが必要です。職人が行くべき道を外れないように、誰かが横についている。たとえば我々の世界には、職人としてディレクターがいます。ディレクターがモノづくりに集中できるよう、「旗振り役」のプロデューサーがいないといけません。

大川:プロデューサーがディレクターを安心させることで、最高のパフォーマンスを発揮できますよね。

清川:さらに、これからの時代で精神性を保つためにはAIなどいろいろな技術との融合も必要です。旗振り役には、その寛容さを受け入れることも求められるでしょう。

大川:建設業界は、日本の労働者20%くらいが関わる巨大市場です。実際は、大勢が関わり、価値観が違うグループで構成されている建設業界全体を旗振りしていくのは、難しいかもしれません。けれども「自分たちの価値を広く世に伝えたい」と、職人自身も「変わる必要がある」と気づき始めています。僕は、その人たちと一緒に、大きなうねりをつくっている最中です。

清川:自分たちのつくったモノが、一人でも多くの人に伝わらないと、作り手の冥利に尽きませんよね。

大川:そうですね。あとは、職人たちが心の奥底で感じている「なんとかしたい気持ち」を引き出してあげるだけなんです。そこが通じ合えば、信頼関係がしっかりと出来上がるので、ますます強い業界になると思います。

清川: 今の時代だからこそ、仕掛けられることがあります。大きく目立たないことには、誰もこちらを向いてくれません。たとえば、とてつもなく大きな夢を語って「その夢を我々は実現するんだ!」と言い切ってしまうくらいの、大きなインパクトが必要です。僕自身も作品づくりの際、「大きく目立つところに怖がらない」ことを大切にしています。

ギャップアップできる業界を目指すために

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大川:仕事内容を知れば、多くの若者が大工職人として働きたくなるでしょうね。建物や家具は、技術の結合体です。「あの1本の木から、これができるの?」と、ブラックボックスに包まれている技術を見える化したとき、「大工職人の仕事って、なんて面白そうなんだろう」と感じるはずです。

清川:日本の技術は成熟していますから、この技術を世界各国の人にも真似して欲しいですよね。

大川:大工職人の技術を学ぶために、ベトナムから研修生が5年間学びにやってくるんです。日本の建設業界で学んで、いざ祖国に帰ると、地位が一気に上がってヒーローになるそうです。

清川:そう考えると、大工職人は発信する立場であり、教える立場でもありますね。ですから、「いつも見られている」と意識を持つことは、職人のプライドにつながるような気がします。「自分が世界を変えられるんだ」と考えることが大事なのではないでしょうか。

大川:まずは、今働いている人間が変わらないといけません。清川さんも「背中で語る」とおっしゃっていましたが、業界に入ってきた子たちは、先輩の背中を見ています。そこで、「あの先輩みたいになりたい」と感じてもらう。自分たちの仕事にプライド持って、「俺らってすごい仕事をしているよな!」と語り合うことで、「俺もそうなりたい、どうしたらなれるんだろう?」と期待感を持ってもらう。「入ってみたらハンパねえぞ、この業界」とギャップアップできる状態を継続させることが必要です。

清川:職人に「誇り」を持ってもらいたいですね。僕自身、自分のフィールドにいる若い世代に「自慢できるような経験を積んでほしい」といつも感じています。自慢できるものや、見せびらかせるもの。それは作品ひとつひとつでいいんです。心底、自分の作品を誇りに思わないと、一生この仕事を貫き通す体力につながらないと思います。

大川:僕もそのことを強く伝えたいんです。

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清川:毎日何かしらの音やアイデアを生み出すのは、基本的に辛いことじゃないですか。大工職人も、毎日家を建てていくというのは肉体的にも辛いときがあると思います。それでも、何かひとつを貫いたところにゴールがある。そういう生き様に触れることで、「俺もやりたい!」と言える人が、新しい世代から一人でも多く出てきますよね。僕らの世代が、その環境を準備してあげなければいけないな、と感じます。

大川:清川さんに手掛けていただいた『第九』は、「TEAM SUSTINA」の活動を広めるうえで注目度の高いコンテンツになりました。ちなみに、大工職人を大勢集めれば『第九』はリアルタイムでも実演できるんですか。

清川:リアルタイムで実演したいですよね! 躍動感があって、ロックな曲調をつくるためには、大きな音のアレンジが必要なんです。だから、人数は多ければ多いほどいいですね。

大川:人数を集めますよ。リアル版『第九』、本当にやりましょうよ! 一発で成功しなくても、次回の設定をして、またチャレンジすればいい。

清川:チャレンジすることが大事なんですよね。

大川:僕も、清川さんと一緒に盛り上げていきます。

 

2017.6.15

PROFILE

クリエイティブを通じて職人の仕事を魅せたい

サウンドアーティスト/作曲家/音楽監督/環境音収集家

清川 進也

1976年生まれ、福岡県出身。「拡張音楽」をコンセプトに、視聴情報の中に存在する音楽の創造や、音楽の新たな機能性を追求するサウンドアーティスト。環境音を楽曲として再構築する音楽技法(サンプリング)を得意とし、自ら映像撮影と録音を同時に行いながら、収録した環境音素材による映像/音楽作品を多数発表。広告作品を中心に、形にとらわれない、いろいろな音楽表現を行っている。

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